前回の記事で、扇状降水帯による大雨で車の水没が全国各地で起きていることに鑑み、車の車高と車内に水が浸入してくる水深について、それから簡単に水没に関する保険について取り上げてみました。
今日の記事では、水没のレベルに着目し、レベル毎に保険会社がどんな補償を行うのか?比較する記事にしていきます。皆さんがもう一度ご自身の自動車保険を見直して、大雨による水害に備えられるような記事にまとめていきます。
どこまでの浸水でどんな修理が許されるのか?どんな状況だったら修理ではなく全損扱いとなるか?の判定については保険会社によって違うのが現実です。
この差が結構厄介で、自分が契約している保険は修理の場合、後々に影響しないレベルまで補償してくれるのか?全損扱いになるとしても、次の車を購入できるだけ補償されるのか?ユーザーとしては気になるところだと思います。
今日の記事では、大手損保、中堅損保、共済、ネット損保に分けて、水害に対する対応の違いについてまとめていきますので、皆さんの保険契約にもお役に立てる記事にしていきます。
水害の判定はおおよそ4段階
一口に「水害」といっても、どれだけ車が水に浸かったのか?程度によって保険会社の対応が変わってきます。まずは水害の4段階のレベルについて見て行きましょう。
保険会社が用いる「水没レベル」の考え方(一般的な目安)
① 床下浸水(フロア下まで)
範囲:タイヤの半分程度まで、水が車体の床下に到達
影響:足回り部品(サスペンション、ブレーキ系)やマフラーに泥水が触れる、室内までは浸水していない
② 床上浸水(フロア上・シート下まで)
範囲:水がドア下端から車内に入り込み、シートやカーペットに達する
影響:内装材(シート、カーペット、内張り)が浸水する。配線やセンサー類が床下にある場合、浸水する可能性大。浸水の場合電装系は使い物にならなくなる
※私のボクスターも、床上浸水でした
③ エンジン浸水(吸気口・ECUまで)
範囲:水位がボンネット上部に達し、吸気口やエンジンルームに水が侵入
影響:エンジン浸水の場合、その後使用するとウォーターハンマー(内部破損)を起こす。ECU、センサー、ハイブリッドバッテリーなど電子制御系が浸水すると修復は不可能
④ 車両全没(水没全損)
範囲:ルーフまで完全に水没した状態
影響:機械部品・電装・内装すべてが泥水に浸かる、再利用はほぼ不可能
以上、水害による被害の場合はおおよそ4段階で、車への被害の度合いも変わってきます。4段階目の「車両全没」まで浸かってしまったら、もう修理ではなく確実に全損扱いになります。
反対に2段階目の「床上浸水」レベルが一番厄介で、エンジンやECU等に浸水がなければ、全損扱いにはならない可能性が高いので、修理になるのですが、どのパーツを修理あるいは交換するのか?については、ディーラー等修理業者と保険会社の査定員(アジャスター)が決めていきます。
その査定員(アジャスター)による査定が、保険会社によって厳しかったり甘かったりします。また、中には同じ保険会社であっても査定員によって判断が分かれる場合もあるようです。
保険会社毎の対応の違いはこうなっている
さて、前項では車の水没の4段階の程度についてお話してきました。では、各段階における保険会社の対応を比較してみましょう。
水没車対応 保険会社別 × 浸水レベル詳細表
保険会社 | 床下浸水(フロア下まで) | 床上浸水(シート上まで) | エンジン浸水(吸気・ECUも) |
大手損保A社 | 修理可 (点検・清掃中心) | 内装交換+電装チェック。電装の被害がなければ修理扱い | 原則全損。安全性重視で修理にはなりにくい |
大手損保B社 | 修理可 (錆防止処理中心) | 内装・シート交換で対応可。ただし電装浸水なら全損寄り | 全損扱いが基本。修理はほぼ不可 |
大手損保C社 | 修理可 (軽度の補修) | 内装交換対応。ただし電装に及べば全損に移行 | エンジン浸水=即全損 |
中堅損保A社 | 修理扱い (清掃・防錆処理) | ECUやHV系統に影響なければ修理可 | HV・EVは即全損判定。ガソリン車も全損が多い |
共済系 | 修理対応 | 内装交換+点検で修理可の判断が出やすい | ECU浸水で全損。ただし従来車で修理可能なら認める例も |
ネット系A社 | 修理可 (防錆・部品点検) | 電装系が無事なら修理可だが全損判定がやや早め | 全損扱いが基本。修理はほぼ認めない |
ネット系B社 | 修理可 (基本処置のみ) | 内装交換は認めるが、安全装置影響で全損寄り | ECU・エンジン浸水は即全損。EV/HVは特に厳格 |
ここでは実際の社名は伏せさせていただきました(ある程度は推察していただけるかと思いますが)。ただ、大手・中堅・共済・ネット系の各保険会社における、おおよその取り扱いがお分かりになったかと思います。
簡単にまとめますと
・床下浸水(フロア下まで)
→ どの会社も修理可。清掃・点検・防錆処置等どこまで行うのか?は会社方針や査定員(アジャスター)の判断で差はある。
・床上浸水(シート上まで)
→ 内装交換で修理可とする会社が多いが、電装系(水がコンピュータ・配線に及ぶ)なら全損扱いとなる場合も。床上浸水も会社方針や査定員(アジャスター)の判断で差はある。
・エンジン浸水(吸気・ECU・ハイブリッドバッテリー浸水)
→ エンジンやECUまでの浸水になると、ほぼすべての会社が全損扱いとなる。HV・EV車は特に安全性から修理はほとんど不可となる。
✅ つまり、床上まで水が来て電装系がどこまでやられているか? が「修理対応か全損か」の分岐点になっています。
✅ 保険会社ごとの違いは、「電装や安全装置が被害を受けた場合に、修理可能とする余地を残すかどうか」に出やすいです。
修理、全損となったときの問題点は?
ここまで、保険会社毎の水没車対応の違いについて見てきました。更に言えば、同じ保険会社でも査定員(アジャスター)の判断によっても差があることがわかりました。
ここで修理・全損扱いに分けて、処理の違いによる諸問題について見ていきましょう。
修理の場合の問題点
浸水の度合いで修理となる場合も多いかと思います。修理の場合も保険会社によってどこまで処理を行うか?が違うので、その処理の違い毎に問題点を整理してみましょう。
・修理が点検や清掃のみだった場合
社内の水抜き及び乾燥させて、カーペットやシートを簡易清掃させるだけであると、後々カビ・悪臭が発生することもあり、更にフロアやシート下の金属部分の錆が発生し強度低下に繋がりやすいです。
・錆防止処理まで実施
配線・カプラーの分解洗浄、接点防錆、フロアやシート下、車体内部の防錆コート塗布吸音材や断熱材の交換を行うので、装系トラブルの発生リスクを大幅に低減し、錆の進行を遅らせ、車体寿命を確保、車内の衛生状態が維持されやすいのですが、その後、その車に長期間乗る場合、社内の悪臭や錆の発生が出てくる可能性はゼロではありません。
・浸水部分すべての部品を交換
ここまでやってようやく、長期間乗る場合のリスクがかなり減少されることになるでしょう。実際私のボクスターも内装はシート、シートレール、フロアカーペット含めてほとんど交換されました。電装系その他部品類もすべて交換、おかげでその後4年、3万kmほど乗りましたが、匂いの発生は全く無く、トラブルも全く無し、本当に快適に乗ることができました。
<結 論>
・点検・清掃だけで済ませると、ほぼ確実に数年以内に電装系や錆のトラブルが出る可能性がある。
・防錆処理まで行えば、後々のリスクは多少減りますが、パーツを極力交換したうえで防錆処理が修理の場合はベストの対応でしょう。ただしそれでも完全にリスク0になるとは限りません。
・個々のパーツの交換も、保険会社や査定員(アジャスター)の判断に寄るので、どこまで交換が許されるのか?次第で、その後のリスク発生の度合いも変わってくる。
・「床上浸水」や「エンジン浸水」レベルだと、清掃+点検だけで復旧はほぼ無理で、全損扱いにする方が合理的なケースが多いです。ただし後述しますが、全損扱いにしてもそれはそれで問題もあるので、難しいところです。
全損の場合の問題点
全損扱いの場合は、保険契約の内容や、車の年式によって扱いが変わってきます。
・車両保険に車両新価特約(新車特約)を付帯している場合
車両保険に付帯できる特約で、事故により契約した車が全損になったり、修理費が新車価格の50%以上になった場合に、新たな車の再購入費用を新車価格相当額を限度に補償するものです。水害による浸水で全損扱いになったり、修理費が新車価格の50%以上になった場合は、この特約が使えます。
☆メリット
①新車買替資金を確保できる
通常の車両保険だと「時価額」しか出ず新車購入には不足するが、この特約で差額を補える。
②修理費が高額でも安心
「全損」認定でなくても、修理費が50%以上なら対象。事故の幅が広い。
③ローン残債リスク軽減
全損事故でもローンを残さず新車買替が可能になる。
★デメリット
①保険料が高い
特に新車購入時に付けると車両保険料+特約料で数万円規模になる(ただしネット損保なら、多少安い場合あり)
②対象期間が限定
契約可能なのは初度登録から25か月以内(ネット損保は新車登録から1年以内など、加入可能期間が大手より短いケースもある)。
③補償期間も最長で60か月(5年)程度に限られる
④買替が前提
新車購入資金としての支払いなので「修理して乗り続けたい」人には向かない。
⑤時価額との差額補償ではない場合あり
契約時の「新車価格相当額」を基準にするため、物価上昇やモデルチェンジ後に実際の購入価格が上がっていると、追加自己負担が必要になることもある。
・中古車の車両保険や新車でも車両新価特約(新車特約)を付帯しない場合
☆メリット
①保険料が安い
新価特約を付けない分、年間保険料が数万円単位で節約できる。
②中古車利用者に合理的
中古車は新価特約の対象外が多く、時価額補償が基本。全損の場合、特に新車・中古車や車種の縛りが無いので、保険金で好みの車を探せるケースがある。
★デメリット
①新車購入には不足
全損扱いでも、支払われるのは契約時の自車の「時価額」。年式・走行距離などを反映した“現在の価値” に基づくので、特に新車購入直後は「値落ち」と「市場相場」とのギャップが大きく、支払われる保険金だけでは新車購入費用に全く届かない。
中古車ならなおさら、保険会社の「時価額算定(レッドブック基準など)」に従うため、ユーザーが考える価値より低い金額での補償となり、同等クラスの車が買えるほどの保険金支払いにはならず、ユーザーの自己負担が必要になる。
②ローン残債リスク
車をローンで購入の場合、保険金(時価額)よりローン残債のほうが多く、借金だけ残ることがある。
③水没で全損になると修理できない
全損になると、修理もできず、時価額しか出ない → 実質「廃車」扱いで資金的に厳しくなる。
<結 論>
・「新車を長く安心して乗りたい人」は、車両新価特約(新車特約)を付帯させるべき、また、大手なら補償が手厚く、修理費50%以上でも対象になるのでネット損保より有利で、代理店サポートもあり安心。ただし保険料は高い。
・「コスト重視で、最悪全損時に新車資金が出ればいい人」はネット損保が向く。ただし対象範囲が狭い場合があるので、特約の内容をよく吟味して契約する必要がある。また、自分で手続きを行う必要も出てくるので、煩わしさはあるでしょう。
・逆に「中古車や安価な車 → 保険料を抑えたい人」は 新価特約なし(車両保険のみ) が合理的です。
※車両新価特約(新車特約)を契約している場合の最大の注意点
特に、床上浸水くらいの被害では、すぐに全損の判定は出ません。査定員(アジャスター)が各部品・内装品の修理や交換の必要性を決めて修理費が新車価格の50%以上になった場合に全損が決定するのですが、水害の場合は、1点1点部品を確認していくので時間がかかり、全損or修理の判定に1ヶ月ほどかかることがあります。
その間、修理はできません。手違いやユーザーの意向で修理に入ってしまったら、たとえ最終の修理見積もりが新車価格の50%以上になったとしても、新車買い換えの保険金は出ず、あくまで修理費用が出るだけになってしまいます。
↑
私のボクスターのケース(>_<)
ですから、修理せずに気長に査定を待たなければなりませんし、仮に50%以下の修理費になった場合は、査定終了してから修理開始になるので、更に自車が復活するまで時間がかかるのです。これが一番厄介なケースですね。
水没をケアするための保険会社選び
今日の記事では、保険会社が用いる「水没レベル」の考え方から、修理か?全損扱いか?を保険会社がどう判定しているか?保険会社の種類ごとにまとめてきました。
また、浸水した車を保険会社が「修理」と判定した場合の問題点、「全損」と判定した場合の問題点についても見てきました。ここまで見てきた上で保険会社選びをどう考えれば良いか?重視すべきポイントを考えてみました。
水没に備えるための保険会社選びの重視ポイント
①車両保険のタイプ(補償範囲)
・一般型車両保険:水没・洪水・高潮・台風なども対象。
・エコノミー型(車対車+限定Aなど):水没は対象外になることが多い。
✅ 水害を意識するなら「一般型」にすることが必須。
②新車買替特約(新価特約)の有無と条件
・大手損保、ネット損保ともに新車買替特約を付けられるが、期間や条件は会社によって違う。
✅ 新車ユーザーは「新価特約の条件(適用年数・支払条件)」を比較して選ぶべき。
③中古車の場合の扱い
・中古車では新価特約が付けられないことが多い。
・この場合、時価額算定方式の妥当性(査定基準の透明性) を重視すべき
✅ ネット損保は査定ルールが比較的明確だが、時価額が低めに出る傾向あり。
④他の特約の充実度
・代車特約・レンタカー特約:水没で修理・廃車になっても代車確保が可能。代車の借用期間の長さも割と重要。
・ロードサービス特約:水害時のレッカー搬送がカバーされるか?(水没の場合、車が動かない場合がほとんど)。
⑤保険会社の対応力(災害時の支払いスピード)
・大規模水害では申請が集中するため、大手損保の方が処理体制・代理店サポートが厚い。
・ネット損保はコスト面は有利だが、災害時の対応遅れリスクを指摘する声もある。
📊 まとめ(選び方の基準)
1.新車 × 水害リスク地域を通行するケースが多い場合
→ 大手損保の「新価特約+50%基準」が最適
2.中古車 × 保険料重視の場合
→ ネット損保で一般型車両保険を選択
→ 代車特約やレンタカー特約もセットしている保険商品推奨
3.都市部・川沿い・海沿い居住者の場合
→ 車両保険は必ず「一般型」、加えてレッカー・代車対応が厚い会社を選ぶ
要するに、水没をケアするなら「車両保険の種類」+「新価特約の条件」+「災害対応力」 を軸に保険会社を選ぶのがベストです。
以上、まとめてみました。皆さんも水没のことも考えて、今一度自動車保険について見直してみてはいかがでしょうか?